【読本】静かなる大恐慌 著:柴山桂太

『静かなる大恐慌』という柴山氏の著書が あまりにも秀逸なので、ここに読みながらとったメモを晒す。
どのように秀逸かというと、静かなる文章でありながら過去の事象(歴史) と照らし合わせながら資本主義の輪廻や宿命を示していることである。 もちろん今後の世界的な展開、及び、どのような政策が国民を幸せにするのか という点においても「未来のことは分からない」と前置きの元で示唆してある。
特に@プラザ合意で通貨安になっても米国の製造業は復活しなかった, Aグローバル化は進む一方ではなく、必ず反動が起きる という指摘とその証明は、 今まで全く小生の知識になかったことであり、多くの 経済学者(チャンネル桜出演者も含む)の考えさえ証拠付きで否定し得るほどの ものである。
抑揚のないおとなしい文章でこれだけのことをあっさり端的に書き連ねている。
この男、恐るべし。

新自由主義の批判や、自説の正しさの証明を 声高に繰り返す本にあきあきした人にはぜひ呼んでいただきたい。

memo

●静かなる大恐慌
・第一次世界大戦の原因
 不況→輸出競争→通貨安競争→(国内の不満,国益のぶつかり合い)→開戦
・大都市の人口集中,少子化は先進国共通の問題
・グローバル化が進んだことにより バブル崩壊のダメージが一国では済まなくなった
・バブルは信用拡大によって起きて、破裂すると信用収縮に走り不景気になる。
 いま大事になっていないのは、昔の教訓を踏まえ、各国とも金融緩和を行ったからだ。
・ストック経済がバブルを作る
 先進国ではGDPよりもストック(貯金)のほうが4倍ぐらい大きい
 ストックが投資に回るため、巨額な投資が一気に動きバブル生成崩壊を成す。
・グローバル化で被害が拡大
 ストックマネーの投資が国境を越えることが容易になったため
 より一点に資金が集中しやすくなり
 バブルもより巨大に急激になった。
 実体経済を脅かす投資が、巨大で自由になったため、世界経済は安定を失い虚弱になった。
・製造業においてのグローバル化の弱点
 世界中で作られていた製品や部品がグローバル化により一箇所で効率的に作られるようになったため
 震災などで一箇所の製造拠点が壊れると部品が手に入らず、世界全体の製造業がストップしてしまう。(車の部品など)
・バブルの事前対策は不可能
 規模が大きく動きが早いので
 事前対策は不可能で事後対応(金融緩和など)をするというのが世界でのコンセンサスになっている
・新自由主義ゆえに巨大になったバブルの対処は事後的に税金で行われている
・グローバル化は広がる一方ではない。歴史的には何度も崩れている。
・経済の相互依存(グローバル化)が進めば戦争はなくなるという説は嘘であると証明された(第一次、二次大戦)
・通貨安競争では先進国のほうが防衛力が強く、新興国は切り捨てられていく。結果ジャスミン革命などの国会崩壊が起きている。
・現在の先進国にとって通貨安政策は一石二鳥(デフレ解消,貿易対策)
 新興国はインフレ気味なので簡単には通貨安政策は打てない
・通貨安になっても問題は解決されなかった
 プラザ合意が成されても、アメリカの貿易赤字は回復せず、製造業は復活しなかった。
・製造業は通貨安になり需要が戻っても復活しない。(しなかった)
 技術や製法の伝達が成されないからだ。
・輸出主導型の経済は好景気では利点が多いが、世界的な不景気に陥ると被害を受ける
・通貨安競争の末に自国産業を守るためブロック経済化し、その打撃を受けた一部の国は国家運営がままならなくなり
 戦争に突入した。
・戦争よりも怖いのは、格差拡大の不満から来る国家崩壊である
・昔のグローバル化と、輸送手段が発展したいまのグローバル化では事情が違う。
 (昔のグローバル化はヒト・モノ・カネの内の、カネが主だった)
 国を超えた分業制になり、各国でいままでの仕事に従事できない人が出現する。
・グローバル化が進んだ国ほど大きな政府になる。
 これはグローバル化によって有利になる人と不利になる人の差を政府が埋めようとするからである。
 (埋めないと政権の支持が持たない)
・トリレンマ 国家主権,民主政治,グローバル化
 ×民主政治 (サッチャー,レーガン,小泉改革) ハイパーグローバリゼーション
 ×国家主権 (EU,東アジア構想) なぜか実態異常に評価される
 ×グローバル化 (ブレイトンウッズ体制) 第一次世界大戦を踏まえ、戦争を起こさないために作られた制度
・しばらくはハイパーグローバリゼーション路線をとり続けることになるだろう。
 それを補うため大きな政府になり続けるだろう。

・ボランニーの大転換
 ハイパーグローバリゼーションの反発として業界団体などが作られ政治に圧力をかけ
 急激なブロック経済が生成される。
 人は市場の気まぐれによって仕事や生活を失われる状態に耐えられない
・ボランニーの大転換は、人工的に作られた不自然なシステムや市場でのみ起こる
・自由経済は、土地や人といった本来値段をつけることをしなかったものに価格をつけ流通させる制度である。
・自分たちの生活を守るために規制があるのが自然な制度。自由市場は自然な経済からしか発生しないだろう。
・完全な自由貿易を目指そうとすればするほど、反動(保護主義の要求)が強くなる
・FTA,EPAは自由化に見えるが、加入国以外をブロックするブロック経済

・資本主義はもともと不安定なシステムでバブルは付き物。問題はその衝撃が大きくなっていること。
・1987ブラックマンデー 1997アジア通貨危機 2007リーマンショック 2017も何かが起こるサイクルかもしれない。
・ミンスキー モーメント
 資本拡大期はお金を借りてくれと頼み込むが、バブルがはじけると貸しはがしが始まり収縮する。
・バブル発生は不可避で、資本主義では事前に押さえ込めない。
 政府などがコントロールしようとするとお金が正常に流れなくなり、資本主義が拡大しない。
・バブルがはじけた後、政府が大規模に支出することにより恐慌は防げるが、インフレを伴う。
・イノベーション(新技術)は、一般的に金回りの良い好景気に誕生する。
 不景気のときは新しいものに挑戦する人が少なく、儲かりにくいからだ。
・資本主義が発展すると公収入が増え国家が発展する。
 しかし現代はグローバル化により国内企業が海外に生産拠点を移しているため、資本主義と国家の良好な関係は崩れている。
・ブロック経済は世界の貿易を大幅に減少させたが、国内雇用を大幅に改善させた

・日本の小泉改革では、経済成長の目標を達成できなかっただけでなく、海外依存の割合を2倍ほどに高めてしまった
・海外依存の割合が高まった結果、海外の経済の余波を大きく受けるようになった
 リーマンショックは本国米国より激しいGDPの落ち込みを見せた
・アメリカ、フランスなどでは、ここ20年間でほとんど海外依存の割合を変化させていない。
・今後様々な経済的ショックが起きるが、日本が一番大きなダメージを負う。
・低成長は先進国全体の共通事項。日本の問題は低成長ではなく海外依存が増えたことによる経済の虚弱性である。
・今後アンチグローバル化の波が起これば、グローバル化を急いできた日本の企業が大打撃を受ける。
・様々な対立が深まるだろう
 大都市vs地方,老人vs若者,大企業vs農業,
・政府の役割として、国内の対立を治めることがあるが、現在の政府はこの役割を果たしていない
 グローバル化が進んでいるのに小さな政府を目指しているからだ。
・資本主義の効率化を目指せば、大都市集中や大企業優遇、海外進出をすることになる。
 しかし経済的衝撃や震災には虚弱になる。
・2度目の脱グローバル化が必ず起こる。
・これからは効率性だけでなく、公正や安定といった要素が重要視されないと資本主義は継続しない。
・いままで危機が起きるたびに資本主義は終わりだと騒がれたが、資本主義は終わらないだろう。
 事実、戦前のグローバル資本主義は国民資本主義になることで息を吹き返した。
・今後、同じパターンを繰り返すとは限らないしどうなるかわからない。
・投資の社会化=公共投資がカギ
 公共投資を物質だけに使うのではなく、共同体やネットワークなど目に見えないものの維持拡大に使うべきでは



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